平成18年度「日本化学会北海道支部奨励賞」選考結果

 

日本化学会創立125周年記念北海道支部事業の一環として、平成15年度に 「日本化学会北海道支部研究奨励賞」および「日本化学会北海道支部研究奨励賞(高校生活動の部)」が新設されました。
第4回となる平成18年度の受賞者が、以下の方々に決定しましたのでお知らせします。


◆支部奨励賞

受賞者> 所属> 研究業績>
山本 靖典 北海道大学大学院工学研究科 有機プロセス工学専攻 助手 「有機ホウ素化合物を用いる遷移金属触媒反応」
田中 賢 北海道大学電子科学研究所附属 ナノテクノロジー研究センター 助教授 「自己組織化による細胞機能制御材料の創製」

 

支部奨励賞(高校生活動の部)

受賞団体> 研究テーマ>
標津高等学校 自然科学部 「標津町周辺の植物に含まれるアミノ酸の分析(第2報)」
札幌藻岩高等学校 科学部 「大腸菌注射によるアフリカツメガエル血中タンパク質の変化について」

 

*北海道支部冬季研究発表会(2007年2月6日、2月7日) において、受賞講演と表彰式を行います

 


 

|||受賞者・研究紹介|||

 

◆支部奨励賞◆

 


山本 靖典

(北海道大学 大学院工学研究科 有機プロセス工学)

<研究タイトル>
「有機ホウ素化合物を用いる遷移金属触媒反応」

 

<研究概要>

有機ホウ素化合物は水、空気に安定で試薬として取り扱いに優れ、遷移金属触媒によるホウ素-炭素結合の活性化を利用することで有機合成において優れた反応剤として利用されています。我々の研究は遷移金属触媒反応を機軸とする有機ホウ素化合物の合成法の開発と有機合成への利用に関するものです。

1.アリルおよびアルケニルホウ素化合物の合成と有機合成への利用 アリル型ホウ素化合物は高度にジアステレオ選択的なアリル化剤として有機合成反応に多用されています。しかし、その合成法はリチウムあるいはマグネシウム試薬とホウ酸エステルのトランスメタル化が一般的であり、これまでごく単純なアリル型ボロン酸エステルが使用されてきました。我々はハロボレーション、クロスカップリング反応を組み合わせた多置換アリル型ホウ素化合物の合成、イリジウムあるいはニッケル触媒異性化反応を用いたトランスおよびシス選択的γ‐アルコキシアリルボロン酸エステルの合成、ルテニウム触媒クロスメタセシス反応を用いたアリル型ホウ素化合物の合成に成功しました。

2.触媒的ヒドロホウ素化反応  触媒的ヒドロホウ素化反応は、還元力が低く官能基に対して穏和なジアルコキシボランを利用でき、触媒として用いる金属および配位子によりホウ素単独では起り得ない様々な反応様式、選択性を達成できます。我々はロジウム、イリジウム、白金を利用してアルケン、アレンおよび末端アルキンを用いた新しい触媒的ヒドロホウ素化反応を開発しました。

3.有機ホウ素化合物の触媒的付加反応 ロジウムあるいはパラジウム触媒を用いたアリールおよびアルケニルホウ素化合物のカルボニル基や電子不足アルケンへの付加反応を開発しました。ロジウム触媒ではCHIRAPHOSや新規不斉リン配位子として2座ホスホロアミダイトを設計し高活性な触媒を見出しました。また、パラジウム触媒を利用する共役付加反応では、ジカチオン性パラジウム錯体に対する有機ホウ素化合物の新しいトランスメタル化反応を開発することに成功しました。

 この度の日本化学会北海道支部奨励賞受賞を大変光栄に思います。今後、より一層努力していこうと決意を新たにしています。本研究成果は北海道大学大学院工学研究科有機プロセス工学専攻 宮浦憲夫教授の指導の下で行われたものです。宮浦教授をはじめ、研究を行った学生、研究員に深く感謝申し上げますとともに、ご協力、ご助言いただいた学内外の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

 

田中  賢

(北海道大学 電子科学研究所附属 ナノテクノロジー研究センター)

<研究タイトル>
「自己組織化による細胞機能制御材料の創製」

 

<研究概要>

 ナノテクノロジーは、新規な機能を持った材料創成を可能とする基盤技術として、世界各国で研究が活発に行われている。材料の微細パターン形成の観点から見ると、リソグラフィーをベースとした技術と並び、物質の自己組織化を利用した技術が次世代の微細加工技術として注目を集めている。

 我々は、高分子を溶液から製膜する過程で起こる結露現象を利用して形成される、均一な細孔(数百nm〜数十μm)が規則的に配列したハニカムフィルムとその3次元構造体の作製を行ってきた。生体適合性高分子や生分解性高分子など多様な高分子から簡便に作製できることが特徴である。これらの薄膜は優れた選択的細胞分離機能を示した。また、孔径を変化させた薄膜は、細胞の接着形態、増殖、分化、運動性、骨格タンパク質の構造、細胞外マトリクス産生能などに大きな影響を及ぼすことが明らかになった。例えば、所定の孔径を有するハニカムフィルム上では、特別なサイトカインを添加しない培養条件下で、神経幹細胞の分化・未分化維持増殖を制御できることを見出した(図)。


(図) 平膜およびハニカムフィルム上で培養した神経幹細胞

 自己組織化によって形成されるパターン化材料の作製の簡便さと構造規則性を活かした微細加工技術は、医療のみならず、光・電子デバイス材料など幅広い分野に展開可能であると考えられる。

 本研究は、北海道大学電子科学研究所ナノテクノロジー研究センター下村政嗣研究室、同創成科学共同研究機構移植医療・組織工学プロジェクト山本貞明研究室の総力を挙げて行われたものです。本研究の一部はJST 戦略的創造研究推進事業、医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創成領域「高分子の階層的自己組織化による再生医療用ナノ構造材料の創成」より支援を受けました。また、これまでに、企業と大学にて様々な経験の場を与えてくださった方々、さらに、支部長の魚崎浩平先生をはじめ選考委員の先生方関係各位に深謝いたします。

 今後は、化学をベースとして、ナノバイオ・メディカルテクノロジー分野の本質的な課題である表面・界面での生命現象の解明とその応用分野を先導できるように精一杯努力させて頂きます。企業での研究開発・製品化、大学での研究・プロジェクト研究(北大21COEバイオとナノを融合する新生命科学拠点、さきがけ、JST、CREST、NEDO)などの経験を通じて、夢を語り、失敗を語り、成功を語って、前向きな提言ができればと思います。まだまた研究年数も経験も少ないので、謙虚な気持ちで忍耐強く実験に取り組み、研究生活をより充実したものにできればと思います。

参考文献
1) Tanaka M, Takayama A, Ito E, Sunami H, Yamamoto S, Shimomura M : Effect of pore size of self-organized honeycomb-patterned polymer films on spreading, focal adhesion, proliferation, and function of endothelial cells, J. Nanosci. Nanotech, 7, 763-772, 2007.
2) 田中 賢, 鶴間章典, 角南 寛, 山本貞明, 下村 政嗣 : ハニカムフィルムを用いた組織再生, バイオマテリアル−生体材料−, 24(3), 152-161, 2006.

 

 

◆支部奨励賞(高校生活動の部)◆

標津高等学校
自然科学部

<研究内容>

標津町周辺の植物に含まれるアミノ酸の分析(第2報)
北海道標津高等学校 自然科学部
○ 亀井 直也

 

1.研究動機

 アミノ酸は自然由来の成分であり、安全・安価であることから大変注目を集め、様々な原料として広く利用されている。本校では昨年度より、付近の湿地帯周辺の森林に生息する植物に含まれるアミノ酸成分を、薄層クロマトグラフィー(TLC)で分析している。
 昨年度の研究の結果、植物の種類・成長時期・部位により含まれるアミノ酸の量が変化していることを、TLCという簡便な手段で確認することができた。今年度は、実験対象の拡大と分析精度アップを目標に種々検討を行ったが、その中で興味ある結果が得られた、加水分解反応によるアミノ酸の分離と日照条件の違いによるアミノ酸の変化について報告する。

2.実験方法

(1)飼料・試薬の用意
  ・用いた植物〜オオバナノエンレイソウ、エゾカンゾウ、オオアマドコロ(葉が出た時期、つぼみ期、開花期、結実期)。
   茎・葉・花(またはつぼみ)に分け、エタノールを加えすりつぶしたあとろ過し、抽出液を集めた。
  ・展開溶液〜<展開溶液1>n-ブタノール:酢酸:水=4:1:1 <展開溶液2>フェノール:水=5:1
 でそれぞれ調製。

(2)試料載せ・展開・検出・同定(図1)
 TLCプレートに試料を載せ、展開溶液1で展開する(約15分)。
 乾燥後プレートを90度回し(=二次元展開)、展開溶液2で同様に展開する(約25分)。
 乾燥後ニンヒドリンスプレーを噴霧し、再び加熱乾燥する。
 出てきたスポットの色や濃さ、Rf値から分離の様子を観察する。
 得られたデータはExcelで表・グラフ化する。そうするとアミノ酸標品や異なるプレート間の展開結果を一括して比較することが可能となる。

図1 展開方法とニンヒドリンによるアミノ酸の呈色

3.実験結果

(1)加水分解反応によるアミノ酸の分離  
 昨年度の結果より、3種のユリ科植物のいずれにも、グルタミンまたはスレオニンが共通して含まれていることがわかった。 しかし、2つの標品は色・Rf値とも類似しており、単純展開のみではどちらか決定できない。
 そこで加水分解を行ったところ、オアマドコロ、エンレイソウのいずれの場合も、共通のスポットはグルタミン酸の位置に移動した。すなわち、末端アミドを有するグルタミンが含まれていたことが実験で確かめられた。

○オオアマドコロ
   加水分解前:
30分後:
○エゾカンゾウ
  加水分解前:
30分後:
図2 加水分解反応の結果

(2)日照条件の違いによるアミノ酸の変化
 同じ大きさのオオバナノエンレイソウ(葉が出た時期)を探し、一部はその日に採取、残りは黒の覆いで隠し、1・3・5週後にそれぞれ回収し、日照の違いによるアミノ酸量の変化を見た。結果は、1週後のものはアミノ酸の種類やスポット数が増加、3週後のものは大きく減った。(5週後のものはかれてしまったため実験できず。)
 予想と異なった結果が得られた原因を、お茶栽培をヒントに考察を行った。遮光当初、アミノ酸生成は続くが光合成は止まるため、アミノ酸は増えたと考えられる。一方遮光を続けると、栄養不足となったエンレイソウは体内の全栄養分を使って生き延びようとし、アミノ酸が減ったと考えられる。

図3 日照条件の違いによるアミノ酸の種類・スポット数の変化

4.まとめ  

実験により、以下の2点がわかった。
  ・加水分解前のTLCで重なっていたアミノ酸スポットを、酸加水分解により分離する方法を見出した。
  ・同種同時期の植物でも、日照条件の違いにより含まれるアミノ酸の種類や量に変化があることがわかった。

5.今後の課題  

 日照条件の実験では、完全遮光をしたのが原因で一部植物が枯れた。今後遮光条件を詰め、アミノ酸量の変化及びアミノ酸を中心とした章物内の物質の流れを解明してみたい。また加水分解では、今回実施した酸加水分解より低温・温和になることの多い、塩基加水分解で実験できるよう検討を行っていきたい。

 

○かめい なおや


<受賞にあたって>

昨年度に引き続いて奨励賞に推薦して頂き、誠にありがとうございました。
今後も地道な実験観察を日々積み重ね、研究をなお一層発展させていきたいと考えています。

札幌藻岩高等学校 
科学部

<研究内容>

「大腸菌注射によるアフリカツメガエル血中タンパク質の変化について
北海道札幌藻岩高等学校 科学部
○荒井 孝行・土釜 大輔・山本 香緒里・菅沼 瞳

 

《はじめに》
  私たちは今まで栄養分の一種としか考えていなかったタンパク質がさまざまな機能を持っていることを教わった。その中でも免疫反応に興味を持った。そこで,それらがどのように起きているかを調べようと思い,実験動物として一般的なアフリカツメガエルを用いて大腸菌による血中タンパク質の変化を調べた。

《実験方法》
 まず大腸菌を寒天培地で培養し,コロニーを造り培養液を遠心分離器にかけその沈殿(大腸菌)をPBSに溶かす。カエルを氷麻酔にかけ、大腸菌PBS溶液または,対象としてPBSのみ背中に皮下注射し採血する。酢酸ナトリウム緩衝溶液が入った1.5mlエッペンドルフチューブに採血した血液を入れ、サンプルをつくる。 参考文献(1)に従いゲルを作成,電気泳動し,染色した。ゲルの泳動像をスキャナーで取り込む。その画像をフリーウェアーソフトImage J(NIH)を使ってタンパク質の量を測定した。

《実験結果》 
 〜血液全体のタンパク〜
  まず初めに,大腸菌(2,800,000コロニー/ml)を注射したアフリカツメガエルから採取した血液中に含まれるタンパク質をゲル濃度7%のSDS電気泳動で調べた(図1)。バンドAは,大腸菌を注射した場合にのみ存在が確認された(図1-(3)(5)(7)レーン)。そしてバンドBの濃度が大腸菌の注射によって著しく増加することがわかった。次に各バンドの濃度を比較したところ,差は注射3日目で顕著に表れた。

 

図1の泳動像の下部に未分離のタンパク質がたくさんありそうだったので,ゲルの濃度を14%にして分子量の小さいタンパク質について調べた。一番移動度が大きく,大腸菌の注射の有無に関わらずバンドCが存在し、このバンドの濃度を解析ソフトImage Jで分析したところ,バンドCはバンドB同様に大腸菌注射3日目で濃度の差が最大になることがわかった。

 〜血しょうと血球のタンパク質〜
 
大腸菌(1倍〜1/10000倍)を皮下注射したカエルから採血した血液を遠心分離器にかけて上澄み(血しょう)と沈殿(血球)に分離して,SDS電気泳動を行った。血しょうと血球では,ほとんどのタンパク質が血しょう側に属していた。血しょう中のバンドBの濃度は注射した大腸菌の濃度が増加するに従って,増えることがわかった。バンドAは濃度が低いが,ほぼバンドBと同様に変化した。

 〜分子量の計算について〜
 電気泳動の移動度から分子量を計算した。バンドAは160,633,バンドBは67,629,バンドCは2,467であることが分かった。

《考察》
 まず今回確認されたバンドA,B,Cが獲得免疫である抗原抗体反応に関係しているか考えた。 抗体として働く免疫グロブリンは今回確認されたバンドの分子量とは大きく異なった。さらに反応の速さから、通常の抗原抗体反応においての抗体タンパク質量がピークを迎えるのは早くても15日かかるが、今回確認されたバンドA,B,Cは3日というとても早い時期にピークを迎えたので抗原抗体反応に関係していないことが予想された。
 アフリカツメガエルの免疫については、「マガイニン」と「マガイニン2」という自然免疫で働く抗菌タンパク質がすでに見つかっていることをインターネットで知った。また,その分子量は約2,400とほぼバンドCと等しいことが分かったので,バンドCには「マガイニン」または「マガイニン2」が含まれていると考えた。今回の実験結果からバンドA,BはバンドCとほぼ同様に濃度が変化したので,バンドA,Bに含まれるタンパク質も自然免疫に関係している可能性が示された。

《参考文献》
 (1)『タンパク質実験ノート下』岡田雅人,宮崎香 編,羊土社
 (2)『生物図鑑』鈴木孝仁 監修,数研出版 
 (3)『ホルモン実験ハンドブックU各種溶液と顕微標本』日本比較内分泌学会 編,学会出版センター

《謝辞》 大腸菌や培地を提供してくれた北海道大学低温科学研究所 落合正則先生に感謝を申し上げる。

 

○ あらい たかゆき、どがま だいすけ、やまもと かおり、すがぬま ひとみ


この実験は、カエルの氷麻酔や実験器具の作製など苦労する点が多かったので、このような賞を受賞でき努力が報われたと思います。
今後も興味のあることを見つけ探求していきたいです。

 

 

*研究内容等のレイアウトは、可能な限り受賞者原稿に沿わせていただきました。