平成19年度「日本化学会北海道支部奨励賞」選考結果

 

日本化学会創立125周年記念北海道支部事業の一環として、平成15年度に 「日本化学会北海道支部研究奨励賞」および「日本化学会北海道支部研究奨励賞(高校生活動の部)」が新設されました。
第5回となる平成19年度の受賞者が、以下の方々に決定しましたのでお知らせします。


◆支部奨励賞

 
受賞者> 所属> 研究業績>
河合 英敏 北海道大学大学院理学研究院 化学部門 助教 「新規超分子モチーフとしてのヒドリンダセン分子の機能開発」
定金 正洋 北海道大学触媒化学研究センター 触媒物質化学研究部門 助教 「ナノスケール新規結晶性金属酸化物設計法の開発」
谷  博文 北海道大学大学院工学研究科 生物機能高分子専攻 准教授 「マイクロ・ナノ反応場における化学・生物発光分析法の開発」

 

支部奨励賞(高校生活動の部)

受賞団体> 研究テーマ>
札幌西高等学校 化学部 「草木染めの研究〜タマネギを使って〜」
札幌藻岩高等学校 科学部 「鶏卵白からの抗菌タンパク質リゾチームの精製」

 

*北海道支部冬季研究発表会(2008年1月29日、1月30日) において、受賞講演と表彰式を行います
  

 

 

|||受賞者・研究紹介|||

 

◆支部奨励賞◆

 


河合 英敏

(北海道大学 大学院理学研究院 化学部門)

<研究タイトル>
「新規超分子モチーフとしてのヒドリンダセン分子の機能開発」

 

<研究概要>

 分子認識や自己組織化、包接による輸送および触媒作用の発現等、分子間の非共有結合性相互作用を巧みに利用した超分子化学は生体ならびに自然界における諸現象、諸性質を分子レベルで解き明かし、その制御を目指すものとして化学界のみならず関連分野においても広く注目を集めています。
  我々は、ヒドリンダセン分子()というこれまでに超分子的な利用例がない骨格に着目し、様々な超分子モチーフの構築へと展開する研究に取り組んできました。この分子は、相互作用部位を3次元的に良く秩序化された位置へ配置するための優れた構造的特徴および修飾性をもちます。この構造的特徴を利用することで、これまでに@水素結合性官能基を3次元的に配列させた分子レセプターやA大環状分子の中にヒドリンダセン分子が貫通し、末端のストッパー部位により抜けられなくなった構造をもつロタキサン分子の構築などに成功しました。また、このような超分子モチーフの構築や超分子特性の発現機構の解明を通して、相互作用性の新たな利用性ともいうべきいくつかの興味深い知見を見出してきました

@アミド水素結合の協同性を組み込んだアロステリックレセプターおよびアドレナリンレセプターの開発
 
アミド水素結合における協同性、すなわち「アミド基におけるNH側あるいはC=O側への水素結合がもう一方の側の水素結合能を増幅する効果」の存在は、これまで多くの議論がなされてきたもののその実証例は限られていました。我々はヒドリンダセン骨格に2つのアミド基を導入したレセプターが芳香族ジオール類に対する正のアロステリック会合能を有することを見出し、さらにその発現機構が上記のアミド水素結合に基づく協同性発現に起因していることを明らかにしました。また、このレセプターはアドレナリンやドーパミン塩類に対する官能基選択的な分子認識能を併せ持つことも見出しています。


図 1. ヒドリンダセンジアミドレセプター2が示すアロステリック会合能およびアドレナリン認識能

A軸・環間の連結性によって運動性が制御されるイミン架橋型ロタキサンの構築
 
超分子構造の構築においてイミン結合など穏和な条件下で可逆性を有する動的共有結合の利用が注目を集めています。我々はイミン結合をロタキサン分子の軸と環をつなぐ連結基として用いることで、効率的なロタキサン構築が可能であること、さらにイミン結合の形成・切断の制御により構成要素の運動自由度を変化させる新規運動制御性ロタキサンの開発に成功しました。また、このイミン架橋型ロタキサンは、酸性加水分解条件ではイミン結合が切断された[2]ロタキサンおよびイミン体の平衡状態となることを見出しました。さらにこの平衡混合物では、より低温にすると運動自由度の高い[2]ロタキサンの組成比が増加し、より高温にすると運動自由度の低いイミン体の組成比が増加するという興味深い温度依存性、運動特性を持つことが明らかとなりました。


図 2. 軸・環の連結性により運動性制御が可能なイミン架橋型ロタキサン

 ヒドリンダセンという分子骨格はそれ自身では特別な物性をもたないものの、3次元的な構造修飾により相互作用性を有する多様な分子設計が可能です。また、それ自身特別な物性を持たないということは、逆に考えると先入観にとらわれない自由な発想へとつながり、新しいケミストリーを生み出す可能性を秘めているともいえます。新しいものを創るためには多くの困難が伴うといわれるように、この研究も当初は苦難の連続でした。多くの学生諸氏の努力により様々な誘導体が合成され、それによりこの分子の良い面が引き出せるようになってきたともいえます。今後は、物質の動きや集合状態を制御することで構造や物性を制御する手法がより重要になるだろうと考え、高次構造体の動的構造制御や分子マシンの構築などへと研究を展開していきたいと考えております。

 このような研究展開を可能にするヒドリンダセン分子システムを提案し、自由な分子設計を託して下さった辻 孝名誉教授、鈴木孝紀教授、大北雅一准教授(名工大)に深く感謝します。また、本研究の成果は上遠野亮助教(北陸先端大)、梅原健志氏(D3)をはじめとする共同研究者らのたゆまぬ努力と有機化学第一研究室の藤原憲秀 准教授ならびに学生諸氏の協力によって得られたものです。この場を借りて感謝いたします。

 

 

定金 正洋

(北海道大学触媒化学研究センター 触媒物質化学研究部門)

<研究タイトル>
「ナノスケール新規結晶性金属酸化物設計法の開発」

 

<研究概要>

 私は、平成13年12月に北海道大学触媒化学研究センター助手(平成19年4月より助教)として赴任して以来、結晶性金属酸化物の設計法開発に携わってきました。結晶性金属酸化物は触媒、医薬品、光学材料、磁性材料等の様々な分野で用いられる機能性材料であり、我々の生活に必要不可欠です。原子・分子(ナノメートル以下)レベルからマクロ(数100ナノメートル)レベルで制御できる設計法の開発は、高機能性材料の開発に不可欠なものです。  北海道大学触媒化学研究センターにおいて私は以下3つの研究を行いました。

1)結晶性金属酸化物を3次元に積み上げたマクロ成型体の新規合成手法の開発
 
様々な有機構造体を鋳型に用いて、金属酸化物を3次元に積み上げた構造体の新規合成法開発を行いました。単分散高分子球のコロイド結晶を鋳型に用いることにより、3次元規則的マクロ(IUPAC規定:孔径50nm以上)細孔を有する金属酸化物を得る手法を開発に成功しました。我々の手法は、鉄、アルミ、クロム、マンガンを含む複合金属酸化物に簡便に3次元規則的マクロ多孔体を導入できる唯一の手法です。
 また、カーボンナノファイバーを鋳型として用いることにより、様々なチューブ状金属酸化物の合成にも成功しました。さらなる応用として、カーボンナノファイバーを利用して様々な基板を金属酸化物ファイバーでコートする新手法に展開しました。
  これからはこの3次元に規則的なマクロ孔の特性を生かした応用研究を進めていきます。

2)新規モリブデン−バナジウム複合金属酸化物触媒の開発
 モリブデンとバナジウムからなる新規金属酸化物を水熱法により合成し、高分解能TEMおよび粉末エックス線構造解析によりその構造を明らかにしました。また、水熱反応前の溶液を分析することにより酸化物合成における新規ユニット合成機構の提案をしました。また、これらの酸化物は、アクロレインからアクリル酸およびエタンから酢酸への酸化反応において、世界最高レベルの触媒活性を示すことを明らかにしました。
 これからは、この化合物のより詳しい構造解析、吸着特性の解析を通して、今後の触媒開発につながるモリブデン酸化物設計法の開発を目指します。

3)ルテニウム置換ポリオキソメタレートの合成と構造解析
 分子性の金属酸化物であるポリオキソメタレートは、特異な酸化還元特性および酸特性を持ち、触媒材料を中心に様々な応用が実用化されている化合物です。このポリオキソメタレートにルテニウムを導入することは、ルテニウムが持つ酸化還元特性および有機物との結合性をポリオキソメタレートに新たに付加するという観点からとても興味深い。私は新規合成法により、ポリオキソメタレートにルテニウムを導入する手法を開発し、ルテニウム置換ポリオキソメタレートの合成および反応性を明らかにしました。

 今後は、このルテニウム置換ポリソキソメタレートを機能性材料へと発展させる研究を行う予定です。 このたびの北海道支部奨励賞受賞を大変光栄に存じます。本研究は、北海道大学触媒化学研究センター、上田渉教授の指導の下で行われました。上田教授をはじめ、竹口竜弥准教授、一緒に研究を行った上田研究室の学生さんおよび研究員の皆様に深く感謝申し上げます。また、ご協力、ご助言いただいた学内外の先生方に厚く御礼申し上げます。今回の受賞を励みに今後はいっそう身を引き締めて研究に取り組んでいきたいと考えています。

 

 

谷  博文

(北海道大学大学院工学研究科 生物機能高分子専攻)

<研究タイトル>
「マイクロ・ナノ反応場における化学・生物発光分析法の開発」

 

<研究概要>

 化学発光(CL)・生物発光(BL)反応は,高感度な分析法として環境,医療,食品衛生などの分野に幅広く応用されています。我々はこれらの反応を,近年その利用が注目されているマイクロ分析システムやミセル・リポソームといったマイクロ・ナノスケールの反応場に適用し,その機能を拡張することで新たな応用を提案してきた。

1.オンチップ化学・生物発光分析システムの開発
 微小流路チップを用いたマイクロ分析システム(μTAS)に研究が,複雑な分析技術を必要とする生化学分野への応用を中心に盛んに研究されている。我々は,μTASにおける検出法としてCL・BL法に着目し,その応用を試みてきた。微小流路の限られた空間内部で大きな反応効率を得るための流路デザインについて検討を行い,流路幅や流路形状とCL反応効率の関係を明らかにしてきた。また,ルシゲニン化学発光法を用いたエピネフリンのオンチップ計測法を確立し,流路デザインの重要性を示した。一方,複数のチップを組み合わせることで多検体・多項目の同時分析が可能なオンチップ分析フォーマットの開発を試み,BLバイオアッセイに適用した。細胞を固定化するウェルアレイチップと試料を導入する流路チップを組み合わせた3次元流体ネットワークを用いるオンチップバイオアッセイフォーマットでは,固定化した複数のアッセイ用試験菌株と複数の被験物質を掛け合わせた全ての組合せの分析を一組のチップ上で一斉に行うことが可能である。ルシフェラーゼ発現大腸菌を用いる変異原性試験に応用し,このフォーマットの有用性を明らかにした。

2.リポソームをナノ反応場に用いた化学・生物発光分析法の開発
  脂質二分子膜からなるリポソームなどの分子集合体は,バルク水溶液中とは異なる環境を提供し,優れた分析反応場となる可能性を秘めている。我々はリポソームのCL・BL分析法におけるナノ反応場への応用を試みてきた。ATPの高感度計測法として用いられるホタルBL反応を様々な表面電荷を有するリポソーム共存下で行ったところ,カチオン性リポソームを用いた場合において発光が著しく増大することを見いだした。この増感効果は,反応物質のリポソーム表面への集積による反応速度の増大ならびに高発光収率中間体の生成によることを明らかにした。カチオン界面活性剤により抽出した細菌由来のATP計測に応用したところ,従来の10倍以上の感度でATPを計測することが可能となった。一方,リポソームの内水相をCL反応場への応用を試みた。リポソーム内水相にCLの触媒となるペルオキシダーゼを内封し,リポソーム外部のバルク水相に発光基質を添加することで,基質がリポソーム膜を透過して内水相に侵入し,リポソーム内部でCL反応することを見いだした。反応速度論解析により発光応答曲線が基質の膜透過速度を反映していることを明らかにした。これにより,ドラッグキャリアーとして使用されるリポソームの重要な特性の一つである膜透過性を極めて迅速に評価することが可能となった。

 この度の支部奨励賞の受賞を大変光栄に思います。発光反応は古くから知られている現象であり,現在でも新しい発光生物が発見されるとともに,応用性の優れた新しい反応系が産み出されています。これからも発光反応の特徴を最大限に活かせる分析反応場について研究していきたいと考えています。最後に,本研究は北海道大学大学院工学研究科生物機能高分子専攻生物計測化学研究室で行われたものであり,上舘民夫教授をはじめ,ご協力・ご助言をいただいた先生方に厚く御礼申し上げます。また,これらの成果は,携わってきた学生各位の努力の賜物であり,彼らの熱意に敬意を評するとともに深謝いたします。

 

 

◆支部奨励賞(高校生活動の部)◆

 

札幌西高等学校
化学部

<研究内容>
草木染めの研究〜タマネギを使って〜
○齋藤英里佳・齋藤沙弥佳

 

1.研究動機

我々は、科学の祭典や実験教室にスタッフとして参加し、草木染めもその一つとして行っています。この材料として、タマネギの鱗片葉の外皮やベニバナを使っています。子どもたちがもっと楽しめる染色法を生み出したいと考え、染色の原理の研究を始めました。タマネギを用いた草木染めは、外皮に含まれるケルセチンという物質が染色に大きく関わっています。また、媒染剤を必要とし、媒染剤に含まれる金属イオンには価数が高いものが用いられています。そこで、条件を変えて、染色を試みました。

2.実験と考察

(1) 通常のタマネギ染色の手順(発色は黄色)
 @ タマネギの鱗片葉の外皮を乾燥させる。
 A 外皮を5gとり、細かくちぎった後、水に浸し10分加熱し、色素を抽出する。
 B 2枚重ねのガーゼで外皮を取り除き、濾液に木綿布を10分浸す。
 C 布を取り出し、媒染剤(硫酸アルミニウムカリウム(明礬)水溶液)に10分浸す。
 D 軽く水洗いし、乾燥させて用いる。

(2) タマネギ染色の媒染剤による影響
 媒染剤を、主に1〜3族の硫酸塩や塩化物、炭酸塩に変えて実験を試みた。
 媒染剤として明礬を用いるとより彩度の高いものが得られた。1、2族元素では色素の定着しか期待できない。炭酸塩を用いた彩度低下は媒染液のpHが染色に関係している可能性がある。
 媒染剤に鉄イオンが含まれている場合、色調の異なるものが得られた。そのなかでも、硫酸鉄(U)による染色は彩度の高いものが得られた。鉄(V)イオンを含む塩類は溶解度が小さく、媒染剤としての効果が小さいようだ。鉄(U)イオンを含むように還元剤のアスコルビン酸を鉄(V)イオンに加えた場合では鉄(U)イオンの濃度を増やせなかったため結果は同じものにならない。塩化鉄(V)のフェノール類の反応は今回の布を用いた発色には強く影響しなかった。今後この点については再考する必要がある。

(3) 染色の時間による影響
 明礬を媒染剤に用いて、色素を抽出する時間と、それによる発色の差を調べた。
 抽出時間を長くするほど色が濃くなり、彩度が低下した。原因は、@ケルセチンの凝集Aケルセチンの酸化B長時間における抽出による不純物の混入が考えられる。これらの実験では判断は不可能なので、さらに検討、実験が必要だと思われる。

(4) 白色鱗片葉による染色
 白色鱗片葉の部分をみじん切りにして染色を試みた。
 蛍光色の黄色に染まった。このことから、ケルセチンはタマネギ全体に存在するようだ。ケルセチンの存在を確認する方法としてもこの染色が用いることができるだろう。白色鱗片葉は水分が多く発色が薄いので、濃度分布を考慮した結果を考えられるようにしたい。

(5) タマネギ白色鱗片葉を用いた染色における日光の影響
 白色の鱗片葉を日光に当てた後に染色し、発色の違いを調べた。
 特定の時間、日光に当てたときに濃い発色が得られることがわかった。原因としては色素の合成反応速度と分解反応速度の推移のずれによるもの、または発色には2種類の物質が関与していることとが考えられる。

参考文献 家庭で楽しむ理科遊び  宮田光男 編  裳華房

 この度、日本化学会北海道支部奨励賞というたいへん名誉ある賞をいただき、毎日取り組んできたことの成果があらわれ、とても励みになりました。今回の受賞を糧に、今後も一層の努力を重ねていきたいと思います。ありがとうございました。

 

札幌藻岩高等学校 
科学部

<研究内容>
「 鶏卵白からの抗菌タンパク質リゾチームの精製」

○谷内 颯樹・小野寺 瞬・小林 央昌・湯谷 敬輔
山本 香緒里・荒井 孝行・土釜 大輔

 

1 はじめに
  昨年度私たちは、アフリカツメガエル血中から大腸菌により発現が誘導されるタンパク質を発見し報告した。今年度は、抗菌活性を調べる方法とタンパク質を精製する方法を確立するために、動物の生体内で存在と抗菌作用が古くから確認されているリゾチームの精製を行った。

2 実験方法
抗菌活性測定 納豆菌または大腸菌入りLB寒天培地上に卵白や抽出したタンパク質を滴下し、37℃のインキュベータ内で一 晩培養する。各菌の生育状況を目で確認し、抗菌活性があるかどうかを確認する。
電気泳動 NATIVE電気泳動およびSDS電気泳動は参考文献の方法に従って行った。
タンパク質のゲルからの抽出 NATIVE電気泳動後に切り出したゲルをプラスチックチューブに入れ、同じ組成のゲルで固める。ゲルが固まったら自作の抽出装置にセットし、泳動(抽出)を開始する。泳動終了後、回収されたタンパク質溶液を取り出す。

3 実験結果  
(1)卵白の抗菌活性
  卵白50μlを、大腸菌または納豆菌を含むLB寒天培地上に滴下し、37℃で一晩培養した。対照としてPBSのみを滴下した部位は、周囲と同じようにコロニーが形成された。それに対して、卵白を滴下した部位は抗菌活性が見られた(図1)。さらに、大腸菌と納豆菌に対する抗菌活性を比較すると、納豆菌に対する抗菌活性の方が著しく高いことが確認された(図1)。

 

(2)電気泳動
 (1)で卵白中に抗菌活性を持つ物質の存在が確認できたので、卵白からその物質を取り出そうと考えた。まず、NATIVE電気泳動という方法で卵白中のタンパク質について調べた。通常のタンパク質は負の電荷を持っているので、上を陰極、下を陽極にして泳動した(図2a)。泳動を開始した直後、サンプルの一部が泳動されず、逆に上(陰極)のほうに浮遊した。その浮遊したタンパク質を調べるために、泳動装置の電極の陽極と陰極を逆にして再度泳動を行った(図2b)。

(3)抽出したタンパク質の抗菌活性測定
 
NATIVE電気泳動後に抽出したタンパク質の分画@〜Cを、納豆菌を含むLB寒天培地上に滴下し、37℃のインキュベータ内で一晩培養した。その結果バンドCを滴下したところのみに抗菌活性が確認された(図3)。

(4)抗菌活性を持つタンパク質の分子量測定
 (3)で抗菌活性が確認されたバンドCのサンプルが単一のタンパク質なのかを確かめるために、SDS電気泳動を行った(図4)。すると、バンドが1本しか現れなかった。また、電気泳動の結果から、縦軸にLog10分子量、横軸に移動度をとり、表計算ソフトExcelを使って近似直線を求め、分子量を計算した。その結果、バンドCの分子量は約14,300であることが分かった。

4考察
 陰極から陽極に向かって電気泳動を行なった時、サンプルの一部が上部の陰極の方向に泳動された。私たちは卵白には正の電荷を持っているタンパク質が含まれていると考えた。そこで、泳動方向を陽極→陰極、および陰極→陽極にセットし別々にNATIVE電気泳動を行った。次に泳動後のゲルからタンパク質を自作の抽出装置で抽出して抗菌活性を調べたところ、正の電荷を持ったタンパク質(バンドC)のみに抗菌活性が確認された(図3)。タンパク質はそれぞれ固有の等電点というpHの値を持っていて、その値が7より小さければ負の電荷、大きければ正の電荷を持っている。多くのタンパク質の等電点は7より小さく、負の電荷を持つが、リゾチームの等電点は約11で正の電荷を持っている。今回私たちが精製したタンパク質はリゾチーム同様に正の電荷を持っていた。SDS電気泳動による分子量測定の結果から、バンドC(14,300)とリゾチーム(14,307)の分子量はほぼ一致した。 以上により、納豆菌(枯草菌)に対する抗菌活性、タンパク質の電気的性質、および分子量計算の結果から、私たちが今回精製したバンドCはリゾチームであると結論づけた。

○たにうち さつき・おのでら しゅん・こばやし ひろまさ・ゆたに けいすけ  やまもと かおり・あらい たかゆき・どがま だいすけ


 昨年度に続き、奨励賞を受賞できたことをたいへん嬉しく思います。本研究に対して様々な助言をくださった北海道大学低温科学研究所 落合正則先生 に深く感謝申し上げます。 今後は今回確立したたんぱく質の抽出及び精製方法を用いて、たんぱく質への理解をより深めていきたいと思います。

 

 

*研究内容等のレイアウトは、可能な限り受賞者原稿に沿わせていただきました。