1 はじめに
昨年度私たちは、アフリカツメガエル血中から大腸菌により発現が誘導されるタンパク質を発見し報告した。今年度は、抗菌活性を調べる方法とタンパク質を精製する方法を確立するために、動物の生体内で存在と抗菌作用が古くから確認されているリゾチームの精製を行った。
2 実験方法
抗菌活性測定 納豆菌または大腸菌入りLB寒天培地上に卵白や抽出したタンパク質を滴下し、37℃のインキュベータ内で一 晩培養する。各菌の生育状況を目で確認し、抗菌活性があるかどうかを確認する。
電気泳動 NATIVE電気泳動およびSDS電気泳動は参考文献の方法に従って行った。
タンパク質のゲルからの抽出 NATIVE電気泳動後に切り出したゲルをプラスチックチューブに入れ、同じ組成のゲルで固める。ゲルが固まったら自作の抽出装置にセットし、泳動(抽出)を開始する。泳動終了後、回収されたタンパク質溶液を取り出す。
3 実験結果
(1)卵白の抗菌活性
卵白50μlを、大腸菌または納豆菌を含むLB寒天培地上に滴下し、37℃で一晩培養した。対照としてPBSのみを滴下した部位は、周囲と同じようにコロニーが形成された。それに対して、卵白を滴下した部位は抗菌活性が見られた(図1)。さらに、大腸菌と納豆菌に対する抗菌活性を比較すると、納豆菌に対する抗菌活性の方が著しく高いことが確認された(図1)。
(2)電気泳動
(1)で卵白中に抗菌活性を持つ物質の存在が確認できたので、卵白からその物質を取り出そうと考えた。まず、NATIVE電気泳動という方法で卵白中のタンパク質について調べた。通常のタンパク質は負の電荷を持っているので、上を陰極、下を陽極にして泳動した(図2a)。泳動を開始した直後、サンプルの一部が泳動されず、逆に上(陰極)のほうに浮遊した。その浮遊したタンパク質を調べるために、泳動装置の電極の陽極と陰極を逆にして再度泳動を行った(図2b)。
(3)抽出したタンパク質の抗菌活性測定
NATIVE電気泳動後に抽出したタンパク質の分画@〜Cを、納豆菌を含むLB寒天培地上に滴下し、37℃のインキュベータ内で一晩培養した。その結果バンドCを滴下したところのみに抗菌活性が確認された(図3)。
(4)抗菌活性を持つタンパク質の分子量測定
(3)で抗菌活性が確認されたバンドCのサンプルが単一のタンパク質なのかを確かめるために、SDS電気泳動を行った(図4)。すると、バンドが1本しか現れなかった。また、電気泳動の結果から、縦軸にLog10分子量、横軸に移動度をとり、表計算ソフトExcelを使って近似直線を求め、分子量を計算した。その結果、バンドCの分子量は約14,300であることが分かった。
4考察
陰極から陽極に向かって電気泳動を行なった時、サンプルの一部が上部の陰極の方向に泳動された。私たちは卵白には正の電荷を持っているタンパク質が含まれていると考えた。そこで、泳動方向を陽極→陰極、および陰極→陽極にセットし別々にNATIVE電気泳動を行った。次に泳動後のゲルからタンパク質を自作の抽出装置で抽出して抗菌活性を調べたところ、正の電荷を持ったタンパク質(バンドC)のみに抗菌活性が確認された(図3)。タンパク質はそれぞれ固有の等電点というpHの値を持っていて、その値が7より小さければ負の電荷、大きければ正の電荷を持っている。多くのタンパク質の等電点は7より小さく、負の電荷を持つが、リゾチームの等電点は約11で正の電荷を持っている。今回私たちが精製したタンパク質はリゾチーム同様に正の電荷を持っていた。SDS電気泳動による分子量測定の結果から、バンドC(14,300)とリゾチーム(14,307)の分子量はほぼ一致した。
以上により、納豆菌(枯草菌)に対する抗菌活性、タンパク質の電気的性質、および分子量計算の結果から、私たちが今回精製したバンドCはリゾチームであると結論づけた。
○たにうち さつき・おのでら しゅん・こばやし ひろまさ・ゆたに けいすけ やまもと かおり・あらい たかゆき・どがま
だいすけ
昨年度に続き、奨励賞を受賞できたことをたいへん嬉しく思います。本研究に対して様々な助言をくださった北海道大学低温科学研究所
落合正則先生 に深く感謝申し上げます。 今後は今回確立したたんぱく質の抽出及び精製方法を用いて、たんぱく質への理解をより深めていきたいと思います。